国家・企業親子論

東芝の不正会計処理問題を見て、我が国をここまで経済成長させた功労企業の一 つと言えども、厳しい競争社会においては、結局やることは人間みな同じと思え る。ところで、日本経済が戦後の目覚ましい成長を成し遂げた一つの大きな要因 は東芝のような大企業が頑張ったからと言うより、彼ら大企業を下から或いは裏 から支えた中小企業があったからと言えよう。日本特有の「富国有徳」論とも言 うべき心性が大企業と中小企業の関係を親子のように見立てる文字通り「親会 社・子会社」の観念は確かに、戦後よちよち歩きの日本経済を目覚ましく発展さ せる基本的産業構造だった。しかし、社会有機体論ではないが、親子関係という ものはいつかは「親離れ」「子離れ」をしないといけないはずなのに、この親子 はなかなか離れることが出来ずいつのまにか歪な親子関係を作ってしまったよう に思える。直接の”親子関係”では無くとも、親的存在との関係が中小企業を左右 していることは間違いが無いので、大企業(親)中小企業(子)論は成り立つだ ろう。「親が子を養う(のは当たり前)」というトリクルダウン理論が成立する のは、人間で言えば中学か高校までの親子関係であり、それ以上は大学生といえ どもアルバイトしながら学費と生計を立てるという関係であった60年代から70年 代にかけてが、日本経済成長のピークであったことはそのことを物語っている。 ところが、この親子はその後もいろいろ理屈を双方が述べて、その関係をなし崩 し的に続けて来ている。(これを『甘えの構造』として捉えた土居健郎は非常な 鋭さを持って日本人論を展開した!その著書がロングセラーとなっていることが その証左だろう!)そのような時に起きたことの一つが東芝問題ではないか。親 はいつかは死ぬのが人間社会では当たり前であるが、経済社会では親が子を食っ て生き残るという畜生餓鬼道の世界が広がっているようだ。しかも、この親子関 係にはまた複雑な関係の国家という主が存在する。この主はこの親子関係に「金も 出すが口も出す」という権利を有しており、人の金で自らを存在させているにも 関わらず支配者となっているのである。奇しくも、山口組分裂と言う話題がある が、この本家と同じ、まさにヤクザの凌ぎ関係と瓜二つなのである。

さて、先述の社会有機体論をベースに一つのデフォルメ話をしたが、中小企業 (子)が生き延びるには、二つの方法論があるように思える。一つはみずから親 となり、また子を育てること。もう一つは、「仲間(友)をつくる」ことだ。誰 しも生きていくうえで支えになるのは親子関係という縦の関係と同時に、友達・ 仲間という横の関係がいつの世も自らを助けていたことは否定できないだろう。 ちなみに織物の世界では、縦糸と横糸の関係が非常に重要なのである。大島紬と いう非常に高価な織物の根拠(存在理由)は、縦糸と横糸が同時に柄を有しなが ら織られていく関係にあるからだ。逆に安物の織物は、縦糸に横糸が服従する関 係である。そう考えれば、現状の中小企業の置かれている状況で足りないのは、 この横糸の関係だろう。親と語れるのは現状をどうにか維持することが中心とな ろうが、友と語る時はこれからの未来に対する希望と夢を語るのではないか。

そ のような中小企業の横のつながりの可能性として提起したいのが「協同組合」で ある。「協同組合」という発想は皮肉にも資本主義国最先端の英国で始まった制 度であるが、その根底の思想は「協同組合は、自助、自己責任、民主主義、平 等、公正、連帯という価値を基礎とする。協同組合の創設者たちの伝統を受け継 ぎ、協同組合の組合員は、正直、公開、社会的責任、他者への配慮という倫理的 価値を身上とする」(1995年国際協同組合年声明)という価値観である。これは 前述した「富国有徳」論の基礎を為す「勤勉、正直、親切、謙虚、素直、感謝」 とオーバーラップすると青山学院名誉教授であり日本協同組合学会会長の関英昭 氏は述べている。まさに同感である。先に述べた国家という主が介在することを 敢えて肯定するとすれば、この横の関係構築にこそ国家は力点を置くべきと言える。

し かし残念ながらそのような兆候は全く見られず、「親を助けるためならば子は死 ね!」という悪しき親子論をベースにした安倍政権に象徴される国家の国家によ る支配の構造ではないか。イギリスの協同組合は国家に対してこのように言っ た。「金は出さなくても良いから口も出すな!」と。翻って我が国では、国家が 「金を出すから口も出す」或いは「口も出さないが金も出さない」と言うまさに 支配者然であり、またこれに従順に従う、或いはいろいろ愚痴をいいながら金を せびるという悪しき親子関係から抜け出すことが出来ないのが現状だろう。

いろ いろと述べ、最後はネガティブな締めとなったことは非常に申し訳ないが、厳し い時代を乗り越える中小企業の在り方は、「力なきものの力を結び合わせるこ と。「ザ・パワー・オブ・ザ・パワーレス」、つまり「力なきものの力を結集 し、そうすることによって真に力ある存在になること」」(経済評論家:内橋克 人氏)である。

 

 

<参考>

①論文『協同組合の潜在能力と発展の可能性』(青山学院大学 名誉教授 関 英昭)

↓ 下記サイトで読めます。

http://www.jcia.or.jp/akamon_jcia/static/page/jcia/images/_thesis01.35771092cbe071725fe167276dbefe94.pdf

 

②国家も一つの可能性を残してくれている。それは「中小企業等協同組合法」 (平成18年6月15日、平成18年法律第75号 平成19年4月1日一部改正)という法 制度である。しかし、この制度の活用は残念ながらまだ活かされていない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S24/S24HO181.html

 

 

(「低炭素都市ニュース&レポート9月10日号」より転載)