二重取りの森林環境税の導入

現政府の増税施策の一環としての国税による「森林環境税」の導入が実現しそうです。導入予定は消費税増税の予定時期(平成31年)との競合を避けて平成32年度(※天皇交代により元号は変わる)をにらんでいるようです。政府が今頃になって急に「森林環境税」などと言いだしたことには何か「企み」があるのでは、という穿った見方もあります。また「森林環境税」については、実は地方税において既に導入されており、その数は実に37府県に上ります。そうなると地方税国税から主旨の似たような税が二重に課税されるという問題が指摘されています。国税の方は、市町村住民税への上乗せ方式で徴収した分を市町村へ交付配分するものです。行政論理からすれば、現在実施されている森林環境税は「府県レベル」であり、今回国が導入するものは「市町村レベル」という違いがあり、実際に地域森林を有する市町村にとっては、国が代行して税を徴収してくれるという「有りがたい税制度」と言うことになります。住民からすれば、この二重取りの問題とともに、例えば森林面積ゼロ地域からも税の徴収は行われる訳で、その不公平感をぬぐうのはそれほど簡単ではないでしょう。国は「森林環境税創設」導入に向けての目的と背景として「森林公益機能」「地球温暖化」「国土保全」「地方創生」など非常にアバウト且つ抽象概念で捉えています。一応、目的税ですので特定財源となりますが、上記のような抽象概念で捉えると、「林業土木工事」もその範疇に入り、大手ゼネコンや建設機械メーカーなどの新たな市場形成ということも可能です。一方、今回の「森林環境税」導入の背景の一つに「未来投資戦略2017」における「攻めの農林水産業の展開」があります。そこでは「林業の成長産業化」が謳われています。具体的には、施業集約化のICT技術の活用、木材のジャストインタイム供給、、CLT(直交集成板)の量産化、「地域内エコシステム」としての木質バイオマスの熱利用、セルロースナノファイバー研究開発などですが、今回の「森林環境税」がこのような、新しい森林産業の育成に使用されるのであれば、それなりの意味は持つものでしょう。現代日本の政治が「格差・貧困」など現実の直接的な課題に対しては全く機能せず、抽象的な言説を基とする観念政治に堕している状況で、大手企業の不正や特権階級によるやりたい放題が跋扈する中での、今回の「森林環境税」導入が、その本来の目的を果たし得るのかどうか、を見極めなければならないでしょう。最後に「森林環境税導入問題」を補足すれば、実は平成3年に和歌山県本宮町から始まった「森林交付税構想」というものがあります。これは新たな税の創設ではなく、現在実施されている地方交付税制度を活用するものです。具体的には、非常に画期的発想ですが、「地方交付金の人口配分に森林面積配分も付加する」というものです。そうなると都市部より広大な森林面積を持つ市町村は、それでなくても人口減少による交付金減額を、逆に森林面積に応じた配分により、市町村による主体的な森林管理を実現できることになります。残念ながらこの構想はその後潰えてしまいましたが、今回の「森林環境税」導入に代わるものとして新たな再評価を行っても良いような気がします。