革命の内面起源~映画『エルネスト』鑑賞記~

今月号会報でも紹介していますが、8月の研究会「キューバ革命チェ・ゲバラの写真展」の視察の折に、映画『エルネスト もう一人のゲバラ』の紹介があり、先日の上映公開に合せて早速鑑賞して来ました。映画では、ゲバラはあくまでも脇役で、主役はオダギリジョー演ずる、フレディ・前村・ウルタードという名もなきボリビア出身の医学生ですが、このフレディがゲバラカストロとの接点におけるセリフのやり取りにこの映画のある種の神髄を感じました。フレディは祖国ボリビアにおける革命解放軍に志願するにあたり、ゲバラの面接を受けますが、この時に次のようなやり取りをします。

 ○フレディ:「司令官(コマンダンテ)、貴方のその闘いの信念は一体どこから来るのですか?」
 ○ゲバラ:「私は常に怒っているのだ。憎しみから始まる戦いは勝てない。」

もう一つ紹介しましょう。

 ○フレディ:「フィデル、私は何をやるべきでしょうか?」
 ○カストロ:「それは人に聞くものではない。いつか君の心が教えてくれるだろう」

私は、このセリフのやり取りに何とも言えぬ感銘と、そして自らの心の内面における葛藤と闘いこそが人生にとって必要不可欠なものなのだ、とつくづく思いました。キューバ革命が、或いはエルネスト・チェ・ゲバラという存在が何故今も自分の心の中で活き活きと生き続けているのか!その理由が分かったような気がします。もう一つ、紹介しましょう。

(前述のゲバラとのやり取りの後に、、、、)

 ○フレディ:「『新しい人間』になるんですね!」
 ○ゲバラ:にこっとうなずく

これは、ゲバラがフレディが学ぶハバナ大学で学生の前で演説した時のフレーズ「新しい人間(オンブレ・ヌエボ)」のことです。この時、彼(ゲバラ)はこう言いました。「大学は学生だけが学ぶ場所ではない。農民、労働者、多様なものが学ぶ場所だ。そしてそこから新しい人間が生まれるのだ」ゲバラは、革命後、「自分のためではなく、他人のために自ら進んで働く生き方」を常に述べ、一人ひとりがそういう「新しい人間」に変われば、苦しみで覆われている世界を自分たちの手で変えることができる、という信念を学生の前で述べたのです。ここに、ゲバラの心の内面にある彼独自の道徳心、それは「ゲバラ主義」と言っても良いのかも知れません。フレディも、そこに自らの求める生き方を発見したのでした。そして、それは、フィデルカストロ)に言われた、「君自身の心が教えてくれる」というあのセリフと共鳴するのです。

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 さて、映画については、これ以上述べると”ネタバレ”になるので、後は皆さんに直接鑑賞してもらうしかありません。
ところで、現在衆議院選挙が行われています。いろいろな政党からいろいろな方々が有名無名問わず、声を張り上げています。しかし、彼らに「(真の)怒り」と「心の声」が果たしてあるのでしょうか。翻って、彼らを選ぶ我々にも「(真の)怒り」と「心の声」はあるのでしょうか。
 私たちの環境は、物質的に非常に豊かになりながらも、「これでもか、これでもか」と留まる事を知らない新しい物質(商品)の波にのまれ、また大量無限の情報の渦は新しい「統治システム」を模索しています。しかし、その裏側では、貧困と格差が激しい勢いで拡大し、その現実(リアリティ)を例えば映像で眺めながら、物欲に勤しむという非対称の構図がそこにはあります。それらに対する「怒り」、そして自らの「心の声」というものが果たしてあるのでしょうか。
 ある状況をもし変えるとすれば、それはやはりその根源には一人一人の内面からしか生まれてこないものでしょう。外部からの刺激への単純な反応(憎しみ)ではなく、もっと深い所からの心の声(怒り)に気づくことの大事さを感じた映画鑑賞でしたが、もっと言えば、私たちが目指す「低炭素社会」に対しても同じようなことは言えるかもしれません。それは、やはりゲバラとフレディが目指した『新しい人間』になることではないか、と。 (低炭素ニュース&レポート10月号より)


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