低炭素社会と豊洲問題

東京の豊洲市場問題が連日マスコミを賑わし、ネット上でも政治的、経済的、社会的視点からの意見が様々に飛び交っています。「低炭素社会」の創造を儚い力ながらも目指している私たち研究会にとっても、豊洲問題は直視しなければならない問題であるという認識はあるのですが、現在焦点となっている「安全・安心」というテーマは「低炭素社会」における最も基本的な問題と思われるにも関わらずこの問題にどこから切りつけて行けば良いのかがなかなかわからないというジレンマに陥っているというのが正直なところです。そこで、豊洲関連の資料をいろいろ調べている中で、江東区から『豊洲グリーン・エコアイランド』という”低炭素まちづくり計画”に突き当たりました。この計画の元になっているのは『都市の低炭素化の促進に関する法律(略称:エコまち法)』です。本計画は 六つの視点と防災という観点から豊洲開発の基本方針を述べていますが、「安心・安全」の視点はその5という項目で「安心安全な市場の整備により信頼向上を図ります」というタイトルで「商品管理システム化」「省資源・リサイクル化」「豊洲ブランド創出」という空虚な方針が3点述べられているのみです。その他の項目についても綺麗な言葉が飛び交ういつものパーターンですが、共通しているのは、「土壌問題はない」という前提であくまでも上地(土地利用)に焦点をあてた計画となっていることです。同法律は国交省管轄であり、土壌問題は環境省管轄であることから、国交省環境省問題に口を突っ込む立場にはないということでしょうが、「低炭素社会」はこのような官僚的思考、或いは分業思考で成り立つものではなく、自然的存在である日々の人間の活動がそのベースとならなければならないはずですが、今の社会を動かすシステムの根本的誤謬を見るような気がします。ちなみに、「低炭素社会」のバロメータとなっている地球温暖化と土壌との関連については、植物の光合成への影響を語るのみで土壌汚染と「低炭素社会」の直接的なつながりを見つけることはなかなか困難ですが、「低炭素社会」を「持続可能な社会」という観点からみると一つのヒントが見つけ出されます。それは、国際NGOナチュラルステップの①自然の中で地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けない。②自然の中で人間社会の作り出した物質の濃度が増え続けない。③自然が物理的な方法で劣化しない。④人々が自らの基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる状況を作りだしてはならない。という4つのシステム条件です。豊洲地区は1923年の関東大震災のガレキ処理による埋立で生まれた土地ですが、町名の由来は将来の発展を願い豊かな土地になる願いから「豊洲」と命名されました。しかし、それから100年近く経った現在このような問題が起きたことは、「天の啓示」とでもいうべく「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉がぴったりな状況です。先述の4条件を深読みすれば、「埋立」という行為に問題があり、またそれを可能にする社会の在り方そのものが問われる訳ですが、現実的な解決策としてそこまでの議論を要求するのは困難なことでしょう。小池知事の「東京大改革」の手始めとしての問題としては余りにも人間存在の根本的な問題ともなった「豊洲問題」。当研究会においても、一つの長期テーマとして考える必要があるように思います。