水資源の危機

石油資源と二酸化炭素の直接的関係を元にしたCOPにおける議論では、水問題は残念ながら中心的な課題にはなっていない。COPはある意味、石油資源を巡る国際的な国家利権の調整とみることができる。20世紀は確かに化石燃料(の確保)が国際関係でのヘゲモニーを握る大きな資源であった。開発途上国の経済発展が先進国の石油資源の独占を許さなくなったことから、先進国が先に手を打った手段が「地球温暖化問題」であったと言える。さて、そのような流れの裏で、21世
紀の根本的課題として浮上してくる課題が「水資源」問題だ。「20世紀は石油をめぐって戦争が起きたが、21世紀は水をめぐる戦争が起こるだろう」というのはたびたび言われる言説だが、間違ってはないだろう。特に日本は森林国で、水が豊富なことからこのような国際な水資源課題への認識が低い。2009年に民間シンクタンク東京財団が「日本の水源林の危機~グローバル資本の参入から「森と水の循環」を守るには~」と言う論考を出し、それに伴い、主要な水資源
を持つ自治体が調査したところ、既に外資に買われた水源林が膨大に上ることが判明したことは記憶に新しい。買収の目的は文字通り「水資源」であることは明白だ。日本の水資源に関する法律は、水の利用(利水)、水害防止(治水)という観点からのみの法制度しかなく、水の「所有」と言う観点からの法整備は無いことから、水源林を買収されても法的に抗弁出来ないという根本的な問題も指摘される。ところで、水ビジネス市場は2025年には110兆円規模に成長するという試算が行われているが、経済産業省においても日本の水関連産業が世界のシェアの6%確保を目標に掲げている。また、各自治体においても水道事業を積極的に海外展開している事例(東京、埼玉、神奈川、広島、大阪等)も増加しているが、これを手放しでは喜べない。海外企業が日本の水を牛耳るビジネスを展開していることを知っている日本人はほとんどいないだろう。例えば、フランスのヴェオリアは千葉県の手賀沼の浄化施設を約50億円で落札した。また同社は、松山市浄水場の運転業務を一括で行っているが、松山市の水道料金は2倍に跳ね上がったという話もある。さて、この水ビジネスで無視できない存在が、ウォーターバロン(水男爵)だ。仏ヴェオリア・エンバイロメント、仏スエズ、英テムズ・ウォーターという水ビジネス3社のことを指す言葉だが、彼らは実に巧妙に世界の水道事業の民営化を狙っている。「世界水会議」というフォーラムは、彼らがフランスマルセイユに本部を置き、国際連合世界銀行を表に出しながら、専門家を使って「水道事業は民営化すべし」という国際世論を作り上げるために
立ち上げたものだ。彼らは「上下水道部門を民営化しなければ、世界銀行が融資しない」という制度まで作ったが、南米ボリビアにおける外資による水道民営化では暴動まで起きている。一旦民営化されれば、後は企業の思うままに事業が支配されるのは、水に限らず、我が国における民営化の実態が如実に物語っているだろう。しかし、新自由主義を標榜する安倍政権においても麻生太郎が、2013年4月にSIS(米戦略国際問題研究所)での演説で日本の水道事業の民営化(外資への開放)を公約している。水は、人間が生命を維持する必要不可欠な資源であるが、「国民の命を守る」という安倍晋三氏が繰り返す言葉は、この水資源の外国への売却によっても果たして守られるのだろうか。二酸化炭素排出に対する意識と同レベル否それ以上の意識を、我々は我が国の水資源に対して持つ必要があるだろう。