アムウェイのこと

今から20年近い前になろうか、仕事で知り合った水産庁の役人から「ホームパーティ」の誘いを受けた。正確に言えば、彼が拙宅に来て一緒に食事を作りながら「お話しましょう!」という企画だった。これを断る理由もなくむしろ営業の一環と考えて快諾した。当日、彼は彼の友人と称する同じ水産庁の人物とそれぞれ夫婦で来訪、私ども夫婦と3組での食事会となった。食材やメニューは彼らが持参するということで私たちはただ自宅で待っていただけだ。そこで、取り出されたのが宇宙食も作れるという圧力鍋(と記憶する)だった。これで料理を作ると言い、実にフレンドリーな振る舞いで我が家の台所に彼らは立ち取りとめもない世間話をしながら調理に励んだ。そして、一緒にテーブルを囲んだ時に、鍋の説明を始め出し、ビデオを持ってきたので見ないか、と提案があった。しかし、拙宅にはビデオはなかったので、そこで小さな包みを開け、当時の米大統領ロナルド・レーガンが写っているビデオといくつかの小冊子を出し、初めて「アムウェイ」という説明を始めた。食事をしながらのタイミングだったので、拒絶する暇もなく、あとは彼らのペースで、アムウェイのシステムの説明がこれまた実にフレンドリーな口調で続いた。何を説明されたか詳細は覚えていないが、キーワードの「ネットワーク」「パートナー」という単語がとにかく多かったことを記憶している。食材等の持参やせっかく来てくれたことに対する義理の思いもあったのだが、結局、その日はいわゆるスターターキットというものを購入してしまった。その後、数日経ってまた誘いの連絡を受けた。目黒公会堂で集会があるから是非来ないか、という誘いであった。アムウェイに集うメンバーがいろいろ語り合う集会と言う説明だった。半分興味も手伝い、集会場へ赴いた。集会場に着いた途端に異様な熱気を感じた。参加者の年齢は同じ30代、40代が中心だった。集会は、次々に参加者が舞台に出て自らマイクパフォーマンスを行い、アムウェイによってどれだけ幸せになったか、どれだけお金持ちになったか、の競い合いのようなトークだった。またこれを客席で聞いている参加者もトークが熱い口調になるたびに拍手や歓声を上げていた。特にアムウェイランキングトップと紹介された人物(中島某)の話は説得力があり、確かに冷静な気持ちを失うとその熱気に巻き込まれてしまいそうになりそうだった。ところで驚いたのは演台にたってトークするメンバーが自己紹介を行うのだが、数名の現役本省官僚が隠すことなく、「大蔵省にいる」「建設省にいる」「農水省いる」、、、と実名で語っていた。限りなく脱法にちかいマルチと思っているアムウェイだったのでこれには驚いたが、彼らの意識はやはり「ネットワークビジネス」だったのだろう。集会の数日後ま水産庁の彼から会いたいという連絡をもらった。そこで、彼にちょっと質問をした。「霞が関アムウェイをやってもいいのか」と。彼の答えは明瞭であった。「ネットワーク構築は官民関係なく積極的にやります。(霞が関には)多くの(アムウェイの)メンバーがいますよ」ということだった。アムウェイでネットワーク構築を行うことが彼の職務にどのような効果があるのか意味不明だが、とにかくも国家公務員中枢に多くのメンバーがいるという事実に驚いた。

さて、結局はその後私はスターターキットの中味もレーガンのビデオも見ることなく、またいつしか水産庁の彼からのアクセスもなくなったが、アムウェイ商法のきわどいいかがわしさは、「実名の政治家・有名人が積極的に関わりながら、参加した集会のような熱気で洗脳することにある」という批判もそれなりにあたっているが、アムウェイの扱う商品は結構それなりに品質が高いものが多く、単純な商品詐欺ではない。

では何が問題か。一つはアメリカと日本の文化の違いがあるように思う。アメリカでは良いものを友人に積極的に薦めることはある種美徳・善的行為とみなされ、薦められた側も結構素直に受け取る。しかし、日本では良いものを薦めることと、薦められた側がそれを選択することの間にはワンクッションあるように思える。またアメリカではアムウェイのようなビジネスでお金を得ることにそれほど抵抗はないのだろう。米国連邦取引委員会においてもアムウェイは合法的存在である。比して、日本では過去豊田商事原野商法ど当初からかなり強い詐欺の意図が感じられる団体が主流であり、個人レベルはともかくも日本社会全体がこのような存在に対して否定的である。とはいえ、アメリカでもこのようなマルチ商法(ネットワークビジネス)の被害者がいるのは事実である。世はまさにネット時代になり、無店舗販売がますます増加してくると思われるがアムウェイ商法は今後どのような変化を見せるのか興味深い。

それにしても今でも霞が関にはせっせとネットワークビジネスに精を出しているキャリアがいるのだろうか!

 

http://lite-ra.com/2014/10/post-564.htm