再認識した作家”三島由紀夫”

三島由紀夫と言えば我々の世代(60以上)には、彼の作品を読んだ、読まないに かかわらず、非常に近い存在ではないでしょうか。もちろん、自衛隊駐屯地にお ける「ハラキリ」が最も衝撃的な”関わり”でしたが。私は高校生の頃に最初に読 んだ三島作品は『不道徳教育講座』というエッセイですが、彼の『金閣寺』や 『潮騒』などの本格的文学作品とは似ても似つかぬ痛快な内容が実に印象的だっ たのを覚えています。

さて、この三島が自刃する直前に各界の著名人と対談したのをまとめた『尚武 のこころ』という対談集がありますが、これは非常に面白い本です。対談相手 が、またユニークで、俳優鶴田浩二から経営者堤清二、作家高橋和己、詩人寺山 修二、そしてわれらが石原慎太郎など10名(他に小汀利得中山正敏林房雄野坂昭如村上一郎)の多士多彩、その内容も今の時代では考えられないほど の”言いたい放題”ですが、それでもその内容が精神的に非常に高度なレベルにあ るのは、さすがにホスト役の三島の力量です。

彼は、「とにかく自分と考えの違う奴と話す」ことが「面白い」し「どんどん 話して行きたい」と常日頃語っていますが、69年の東大全共闘との討論などは、 そのシチュエーションと飛び交う言葉の豊富さなど、ある意味非常に重要な歴史 的出来事だったのではないかとも最近思ったりします。もし彼が今生きていた ら、どのような人物とどのような会話・討論をするのだろうか、と想像します が、逆に今の日本に彼のような存在がいないことの寂しさとともに、我が日本人 の全体的劣化に益々気落ちするこの頃です。

さて、この『尚武のこころ』の石原慎太郎との対談では、石原慎太郎はまだ39 歳くらいだと思いますが、非常に理知的発言をしています。しかし、この対談か ら半世紀近く経った今の彼(石原慎太郎)を比較するとその思考の差(劣化)に おどろくばかりです。三島はこのように齢を重ねる中で思想が劣化することを予 知しそれを恐れた結果が例の”ハラキリ”につながったのかもしれない、などと勝 手に思ったりした『尚武のこころ』の再読でした。

 

【DAIGOエコロジー村通信8月号通信より】