NHKが取り組んだ秀逸な企画『BS特集 イラク人ジャーナリストが見た戦争』

9月8日朝からの「東京オリンピック開催決定」にはなはだやるせない気持ちになったこの日、どのテレビをみても「開催地決定!開催地決定!」に浮かれ湧く報道を見るのも我慢ならず、幼稚な抵抗で民放の“サザエさん”を見終わった後、狂騒に踊る“NHK7時のニュース”の裏番組にチャンネルを合したところ、表題の同じNHKのBS特集に偶然出くわした。

番組は、今から10年前のイラク戦争の一部始終をイラク人として凝視、取材したアリ・マシュハダーニさん(44)の証言と彼の撮影した映像をもとに構成された50分の番組であったが、最初から最後まで引き込まれてしまった。彼自身、米軍に8回も逮捕拘束され、ある時は指名手配まで受け、悪名高いアブグレイブ刑務所の独房で激しい拷問を受けた経験を持つ。その説得力は生半可ではない。

彼の取材の視座は、「普通の市民が何もためらいもなく虫けらのように殺されていく矛盾と不条理」である。米軍は、「イラクを悪政から解放し民主主義をもたらすとともに大量破壊兵器を除去する」という大義名分でイラクに侵攻したが、そこで行われている現実は、米軍による市民に対する非人間的な蹂躙であった。2歳の子供の頭部をためらいもなく米軍兵士が撃ったと泣く母親の「これが民主主義ですか!」という叫びを映像はしっかりと捉えている。

ふと、50年前のベトナム戦争の映像が頭に浮かぶ。「全く同じではないか!」と思った。ベトナム戦争については当時の国務長官マクナマラが『判断と能力のよるあやまちに加え「無知」によるあやまちが深刻な失敗を引き起こした』(1997年共同通信 マクナマラ回顧録 ベトナムの悲劇と教訓)という“反省”を行っているが、それから間もないイラク戦争である。そのイラクから撤退したものの、アフガニスタンではまだ今でも戦闘中である。「この国(米国)は戦争をしないと経済が回らない」という言説があるが、確かにその通りなのだろう。当然、米国のこの戦争を支持している欧州各国(英国、仏国)、そしてわが日本も、同じ“経済運命共同体”だ。

米軍によるベトナム人民の殺戮の映像は、当時中学生の私に強烈な印象を与え、その後の自身の人生へも大きな影響を与えたが、今日のアリ氏の映像はそういう意味で語弊はあるが“新鮮”であると同時に新たな思いを抱かせてくれた。敢えて言えば、表番組(NHKニュース)での表層的狂騒と対比することで、今回の「オリンピック開催」が持つ本当の意味或いは本質というものが見えて来る。そんな気がした番組鑑賞であった。再放送があると思うが是非ご覧になって欲しい。

 

http://www.nhk-g.co.jp/program/documentary/2013/063/