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“革命的”法律!地方自治法94条

私たちは住んでいる町の「議会」や「議員」の存在は民主主義の実践としていわゆる「議会制民主主義」の具現化だと思い込んでいる。確かにそれは間違いではない。選挙権をもった有権者が私たちの代表としての「議員」を選挙で選び、選ばれた「議員」が「議会」で私たちの日々の暮らしに関係するいろいろな決め事を議論し決定していく。そのように私たちは学校時代にも学んできた。「選挙」は民主主義の象徴でもある。

ところで、「地方自治法」という法律は誰しも中味は知らずとも、その存在は殆どの人が知っているだろう。ちょっと硬いが、その第一条は『この法律は、地方自治の本旨に基いて、・・・中略・・地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。』となっている。国の防衛などの大きな決め事を除けば、「教育」「介護・子育て」等から「ゴミ処理」「道路」・・・とにかく私たちの日常生活に関する決め事は殆どこの地方自治法の範疇で決められている。

さて、この地方自治法の第94条に注目してみたい。こう書いてある。

『町村は、条例で、第八十九条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。』ちなみに89条は『普通地方公共団体に議会を置く。』となっている。

どういうことか!

簡単に言えば、議会を置かず住民で決め事を決定できる!、ということである。本来の意味のタウンミーティングである。(現在日本で行っている“タウンミーティング”は単なる対話集会であるが、本来は住民による決議機関のことである)

教科書的に言えば、議員を選び彼らに代行させるのが「間接民主主義」であり、このように住民が直接自らのことを決議することが「直接民主主義」だ。法的にみれば、現在も「住民直接請求制度」と言うものがあり、条例の制定・改廃請求は可能であるし、事例も数多くある。しかし、この直接請求制度の“穴”は、最終的な議決権が住民側にないということだ。あくまでも“請求”であり、議会が否決すればそれで終わりである。その点、この94条を活用した町村総会であれば、住民自身の自己決定権が行使できるのである。ただし、この条項の適用は、「町村」に限られている。市以上の規模になると実際的な問題として、住民総会の開催が物理的に困難と言うことがその大きな要因である。

しかし、「町村」であればどこの自治体でも、現在の議会を廃止し、住民直接参加による「町村総会」で様々なことを「議決」できるのである。しかも選挙権を有するものはだれでもこの総会に参加できることから、議員の被選挙権の年齢基準の25歳を考えればより多くの住民が直接自分たちのことを決めることが出来る。

何ということか!こんな革命的な手段がきちんと現法の中に位置づけてあったとは!

今全国に町村は930ある。町村の歴史は古く、明治22年に「明治の大合併」が行われたが、この時点で町村数は15,859(総務省)あった。それ以後、「昭和の大合併」(昭和36年3,472)、「平成の大合併」(平成18年1,821)となり、現在に至っている。

国は中央集権的要素をどんどん推し進めており、この町村がゼロになり、市だけが残る状況になれば。この94条も自然消滅する。もちろん、現職の町村議会議員も心理的にこのような動きには否定的な行動を取るだろう。また地方自治の研究を進める専門家においてもこの94条の解釈・取り扱いを軽視する傾向にあるようだ。ちなみに首都大学大杉覚教授の「日本の地方議会」(平成20年)においては、この94条について「実質的には、住民が一堂に会して会議を開催し、意思決定ができるような人口・面積ともに非常に小規模な町村のみが想定されている」と述べているが、小規模町村という抽象的な概念ではなく、法的には町村であればどこでも94条の適用は可能なのである。

現状の「議会」が決める議員が職業化したり、世襲化したり、一方ではたまた豪華な庁舎が建てられたりして特権階級化しつつある現在の「議会制間接民主主義」に対する住民の感情的なものも含め憤りは大きいものがあるだろう。また、いろいろな住民運動を担ってきた方々も最終的な議決権を議会や首長に委ねてしまう現在の「直接請求制度」の限界を感じているのではないか。

この94条の存在は、このような住民と議会(議員)の乖離した現状に穴をあけることが出来る大きな“知的武器”と思われる。

(94条の行使には)確かに現実的課題としてさまざまな障害が立ちふさがっていることはその通りであるが一考に値するのではないか。

 

ちなみに、この94条を実際に行使した事例は一つしかない。1951年から1955年までの東京都宇津木村(現八丈町)である。

 

 

<補足>

この94条に関しては平成13年に当時の自民党政権の片山総務大臣が以下のような見解を述べている。

 

「スイスが地方自治や民主主義の大変進んだ国だ、コンミューンというのがあって、そこはどうも全員参加で、まさに町村総会みたいで物を決めていくということを我々も教わりましたよね。だから、これが一つの理想であるということは事実ですけれども、しかし、それは、現在のような状況の中で町村総会という形で町村議会のかわりができるかというとなかなか難しい、こういうことではないかと思いますね。ただ、先ほども言いましたが、将来、世の中がずっと変わってきますから、おかげさまで電子投票のトライアルの法案も参議院で御審議を賜るようになりました。トライアルでございますけれども、ずっと将来は、そういうことで、形の変わった直接民主主義が、また地方自治制度の中に導入していくべきだということになるかもしれないと思います。そういう意味では、この規定は大切に残しておきたいと思っております。」

(平成13年11月27日 衆議院総務委員会)

 

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009415320011127012.htm