ノーベル経済学賞の功罪

ノーベル経済学賞の正式名称は「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」と言い、スウェーデン国立銀行の設立300周年の祝賀行事として設けられ、ノーベル財団が合同の行事として認めているだけであり、いわゆる正式なノーベル賞ではない。

京都大学教授の依田高典によれば、1966年から2011 年までの歴代ノーベル経済学賞受賞者は総勢70名であるが、受賞者の国籍を見てみるとアメリカが圧倒的で 46 名の 66%を占めている。「ここまで偏ったノーベル賞分野は他にはない。2 位のイギリスが 7名、3 位のノルウェーイスラエルが3 名である。」(依田)これを年代別にみると、1960・70年代は受賞者17名のうちアメリカは6名でそれほど目立った多さではない。しかし、これが1990年代になると受賞者17名のうちアメリカは12名と全体の70%を占めている。前述の依田は、「明らかなノーベル経済学賞の傾向の変化が見て取れる。・・<中略>・・・1994 年のゲーム理論、1997 年の金融工学が印象深い。また、コースの取引費用経済学、センの経済倫理学のように、ノーベル賞受賞後にブームが起きるようなケースが増えてきたのも特徴である。」と評している。(『ノーベル経済学賞の忘れもの ーハロッドと森嶋通夫ー』:依田高典)

この時の受賞者の在籍大学の1位はシカゴ大学に5名である。ちなみに2位はケンブリッジ大学の2名であり、その差は歴然として来ており、いわゆる「シカゴ学派」の台頭とも言える。シカゴ大学は、もともとジョン・D・ロックフェラーが1890年に創立した大学であるが、そのなかでも「シカゴ学派(経済学)」と呼ばれる経済学領域は、新古典派を元にしたいわゆる新自由主義市場原理主義をその根本思想に持っている経済学閥である。新自由主義については、我が国においては橋本政権、小泉政権安倍政権が冷戦終結後の米国中心世界経済体制を側面から補完する立場から、売国的に進めてきたいわゆる「構造改革路線」であり、現在の大きな課題となっている「雇用」「TPP」「原発」「集団自衛権」などの売国的諸問題に通底する思想でもある。日本に限らず先進国と言われる国々でも新自由主義は吹き荒れており、各国の雇用状況・経済状況は似たような傾向にあり、そのような意味では新自由主義的経済政策の限界を示しているとも言える。

しかし、先述したようにノーベル経済学賞受賞の状況と世界経済の流れの関連をみれば、依田が喝破したように「受賞後にブームが起きる」という裏仕掛けの構造が明らかである。

ノーベル賞と聞くだけで「権威あるもの」と錯覚する、マーケティングにおけるブランディング手法でもあり、極言すれば現在巷を賑わしているゴシップスキャンダル「ニセベートベン佐村河内某」と同じレベルでもある。このようなマッチポンプがいつまでも続く訳でなく、2013年度のノーベル経済学賞はとうとうその馬脚を現してしまった。すなわち、全く見解の異なる人物両方に賞を与えてしまったのだ。(ユージン・ファーマロバート・シラー※詳細はhttp://toyokeizai.net/articles/-/21796

ノーベル賞の存在意義を真っ向から全否定するつもりはないが、文学の世界であれば、人間の内面の問題でもあり様々な価値観もあろうが、もし経済学にも多様な価値観があるという見解であれば、そのような見方も可能であろう。

ノーベル経済学賞が、結果として世界に生きる人々の生活環境に直接かかわっていくグローバル体制の流れを推し進める役割を積極的に担っているとすればその罪は相当深いように思える。